それに今でいう自然科学だけをさしていたわけでもないようです。その証拠に,そのころの王認学会で最初に出版された本はグラント(1620〜1674)の『死亡表に基づく自然的・政治的考察』(Natural
and Political Observations Mentioned in a Following
Index and Made upon the Bills of Mortality)という自然科学というより社会科学の本でした(1662)。他にも,ペティ(1623〜1687)の『政治算術』(Political
Arithmetrik)という,現在でいえば統計学,数量経済学という分野の本も出版されています。
「science」というのは,もともと「個別の科の学」という意味はなく,ラテン語の「知る」(scere)に基づいているそうです。たんなる「知識」(scientia)というような意味あいだったようです。英語では,1600年のはじめころ,そのラテン語から由来する「science」という言葉として定着したそうです(注2)。しかし,1660年に成立した王認学会(ロイヤル・ソサエティ)の正式名称は「The
Royal Society of London for Improving Natural Knowledge」(自然の知識の増進のためのロンドン王認学会)で,ここには「science」という言葉は含まれていません(注3)
。当時は,王認学会などを中心に行われていた,1600年代の「知的活動」は「science」ではなく,「natural
philosophy」(ナチュラル フィロソフィー)と呼ばれていたようです。